2016年3月1日火曜日

レクサスGS-F 「塊であれ、宴であれ」

  英国ブランド車、その中でも特に高級車の評判がすこぶるいいようです。それに対して性能は申し分ないものの、あまりにも商圏を広げ過ぎたばっかりにやや薄味になりすぎた日本車やドイツ車は迷走気味です。そのおかげもあってか、かなり前に解体されたMGローバー・グループの残骸でしかなかった「ランドローバー」と「ミニ」、それから業界再編の波に完全に取り残されたはずの、「ジャガー」、「アストンマーティン」、「ロータス」、「ケータハム」、「モーガン」、「マクラーレン」が新型モデルを次々と持ってきます。さらにドイツ資本傘下で生きる「ベントレー」と「ロールス」・・・こんなにあるのかよ!なんと見事にドイツ勢や日本勢と同等以上に多彩なブランドが日本で展開されています。

  フォードが撤退を余儀なくされるくらいの御時世なのに、吹けば飛びそうな(失礼!)ほど小粒ぞろいのイギリスブランドにはなぜかそんな気配は感じないです・・・。もちろん「身の丈」にあったビジネスを展開しているということもあるでしょうが、やはりクルマ好きの潜在意識の中で、「英国ブランドの英国生産車」が日本車・ドイツ車よりも着実に「高いステータス」を持つようになったことで、比較的明るい展望を各ブランドともに持てているのではないかと思います。もっともミニ以外は高級車ブランドもしくは純然たるスポーツカーブランドですから、フォードと比べるのは少々筋違いではありますけど。

  メルセデスGLCとジャガーFペース買うならどっちですか?・・・「SUV買うならMBやジャガーじゃなくてボルボ辺りだろ」と横槍を入れられると、ちょっとは正気に戻るかもしれないですけど。ジャガーとベントレーが相次いでSUVを発表しました。ジャガーFペースは「対マカン」でしょうか?、ベントレー・ベンタイガは見るからに「殿上人のSUV」であり、どちらも六本木・赤坂界隈で増殖しそうな雰囲気を持ってます。とりあえず見る限りでは、芸能人が乗りまわしそうな高級車のマーケットを見事に掴みそうな出来映えなんですけど、そう感じさせてくれる要素は、どちらも「英国車ですよ!」という主張がハッキリしているところですね(ドイツ車や日本車は眼中にない!?)。それと同じ島国の住人だからでしょうか? 英国ブランドが打ち出すデザイン意匠は非常に共感できるものが多いです。

  先日も日曜日にダラダラと家に居たらメルセデスから電話きました。どうやら新たに発売したGLCの売れ行きにかなりの不安があるようでして、リストを潰して必死に台数確保に走っている感じですね・・・。元々それほど興味もないクルマなので値引きに関しては特に聞きませんでしたが、価格で競合するジャガー・Fペースがとても良さそうだからな〜・・・と勝手に相手の事情を想像しながらちょこっと話を聞いてました。いよいよ3月ですからいよいよジュネーブMSの開催で、各ブランドからどんどん出てくる「高級SUV」がカーメディアの誌面にずらりと並ぶでしょう。ベントレーにランボルギーニ、マセラティが揃い踏みに加えて、なぜかやる気満々な日産からもエクストレイルのプレミアム提案があったりと目新しさで注目を呼びそうですが、控えめなデザイン!?のメルセデス陣営SUVには少々厳しいコメントが出てきそうです。

  いくら成長市場だからといっても、どんなSUVでも売れるというわけではなく、特にレクサス、メルセデス、BMW、アウディといったプレミアムの定番ブランドにとっては、それぞれのここ数年の取り組みが如実に値踏みされる結果になりそうです。その為にはどこよりも真面目にいいエンジンを作ったり、所有欲が高まるような内外装の演出を地道に磨くなど、いろいろな要素があるとは思います(もちろん一般に認知されるかどうかですけど)。その中でもここ数年のメルセデスは「上手くやっている!」とカーメディアが声を揃えてお墨付きを与えてますが、それが「正鵠」と言える評価だったならば、お客が殺到して忙しい日曜の日中にドブ板的な営業電話をかける暇なんてないとは思いますけどね。

  今ではコンフォータブルな内装なんてプリウスやレガシィでも十分に満喫できますから、カーメディアがMBを絶賛することが多い内装の良さだけで「プレミアムブランド」を名乗るのはちょっと違うんじゃないかと思っています。それよりももっと大事なことは、メルセデス、BMW、アウディ、レクサスにはブランドが尊敬を集められるような「圧倒的」といえるクルマがあるのか?だと思います。それぞれに「AMG」「M」「RS」「F」といった「記号主義」こそ採用してはいますけど、どうも昨今のモデルはどれもケツの穴が小さい!?ような気がします。日本で健気に営業を続ける英国ブランドの強みと言えば、やはり「圧倒的な存在感」です。12気筒エンジンを2ドア車にぶち込むといった「スーパーカーまがい」なクルマはもちろんですが、ベントレーやアストンでは入門車とされる8気筒のモデルでも・・・一言で片付けるならば、プレミアムカーのお手本のようなブランディング(演出)が見事に様になっています。

  ベントレーと同じグループであるアウディや、ロールスロイスを抱えるBMWが、やや控えめで小振りなモデルを展開するのは、戦略上やむを得ないことだとは思います。残った2つは当然ですが、「メルセデス」と「レクサス」にはそれなりの覚悟があるようで、それぞれに「ベントレー」や「アストン」に対抗できるクルマ作りを意図しているのが伺えます。メルセデスが掲げるのはAMG専売の「GT」と8気筒と12気筒の2系統だけで仕立てる「Sクーペ」の2台。このどちらかのオーナーになれれば・・・とりあえずフェラーリ乗りからナメられることもないでしょうし、老若男女問わずにあらゆる人々から「名士」と尊敬される存在にもなれるでしょう。どちらも新車で買っても2000万円まではいかないですし、スーパーカー並みに値落ちもすくないでしょうから、下手な高級車を買うよりもよっぽど経済的だと思いますよ。だけど昨今の日本市場ではこの2台の存在はそれほど知られずに、A45AMGといったどうでもいい「平凡」なクルマばかりが注目されているのが残念です・・・。

  一方のレクサスの看板モデルは1989年から一貫して最上級サルーンである「LS」なわけですが、このクルマは法人車の割合が圧倒的に多いというデータが示すように、これはあくまで「カンパニーカー」のラスボスに過ぎません。知っている人からみれば経費で買ったクルマと陰口を叩かれるのがこのクルマの悲しい宿命です。LSとSのオーナーは家業を次いだ2代目、3代目が多いのは事実です。先日のデトロイトMSでは、新たなレクサスのフラッグシップとして「LC500h」という2ドアのラグジュアリー車が登場しました。これはレクサスが「カンパニーカー・ブランド」から「プライベートカー・ブランド」へ新たな一歩を踏み出す決意の表れだと思います。「LS」に乗るのが嫌な人向けの待望のラグジュアリー・クーペになりそうです(2ドアは経費処理すると「怖い」らしい・・・)。

  そしてもう1台。昨年12月の発売以来いまいち話題にならない。プリウスに完全に喰われてしまっている可哀相なモデルが「GS-F」です。本体価格1200万円のEセグセダン・・・というだけで日本市場のユーザーからはリアクションがかなり薄く、というより完全に無視されていると言った方がいいかもしれません。そういう不憫なクルマだから気になってしまう・・・これが自分の性分であることはわかっているのですが、このクルマはそんな理由などなくても「素晴らしい」と思いますけどね。

  日本の自動車産業が時代遅れと言われた10年前、「クルマ屋はミライが無い」と世間はあざ笑っていたように記憶しますが、現在も兆円単位の売り上げを誇る日本の製造業のほとんどが自動車メーカーです。世間では台湾によるシャープの買収が取りざたされていますが、電機トップのパナソニックでもトヨタ傘下のデンソーやアイシンより遥かに下の売り上げしかありません(なんで世間はそこまでシャープに固執するの?)。そういった荒波を乗り越えてきた日本の自動車産業が、さらに力強く、多くのユーザーを巻き込んで進見続ける「うねり・ムーブメント」のためにも、期待された「旗艦」といえるモデルだと思うのですよ。

  「GS-F」は端的に言ってしまうと、トヨタのクルマ作りの中に鎮座する「巨魁」だと思います。そう臆面もなく言えるようなモデルをトヨタが生み出したことに、まずは「最敬礼」することこそがクルマ好きの正しい姿勢かなと・・・(それから検分)。やはり「1200万円」というだけで否定すべきでもないですね・・・5年後に600万円で売れるならば、ポルシェよりも価格の下落幅は少ないと言えます。いや、金額じゃないです!レクサスが英国ブランドと互角に並び立つために「挑戦」にしたことにこそ価値があると思います。かつて「フェラーリは過去のクルマ」と言い放ったホンダのNSX陣営は、後世になって決して不遜などいうレッテルは貼られませんでしたし、間違いなく大きな足跡を残しました。

  初代NSXが伝説を作っていたころ、トヨタのアリストターボも「市販最速セダン」という称号を得ていました(GSの前身モデル)。セルシオもスープラもソアラもあったトヨタにあっては、一般の認知度はそれほど高くはなかったでしょうが、クルマ好きからはめっぽう愛された名車でした。簡単に言ってしまえばスープラのエンジンをクラウンのボディに押し込んだ、いわゆる「改造自動車」というジャンル(ランエボ、GT-Rなど)なんですけど、この手法は今では少なくなりましたが日本車とドイツ車がそれぞれに覇を称えた「得意技」でもあります。

  いまでもBMWやメルセデスはせっせと改造自動車を市販してますけども、失礼を承知でいうと・・・完全に煮詰まってますね。もうすでに新しい3シリーズの開発が始まっているので、次のM3の企画もあると思うのですが、現行の何ら影響力を持たないM3を放置して一体どこへ向かうというのでしょうか? A45AMGの次なんて、もう想像もしたくないです・・・。何も勝ち取れなかった「なんちゃって高級車」の亡骸が、「輸入車ガイドブック」には累々と積み上げられています。

  そうした迷える子羊ブランドに、目指すべき指針を与えるクルマ。1000万円以上の巨費を「趣味」に投じるとするならば・・・時代を区切るだけの器量を持った名車を選びたいものです。
(熟々と書いていたらヘンな着地点になってしまいました〜・・・すみません)


リンク
最新投稿まとめブログ

  

  

  

  

0 件のコメント:

コメントを投稿