2014年10月13日月曜日

ポルシェ・ボクスター 「ブランド求心力は意外なところに・・・」

  「欲しくなるようなクルマを作れ!」・・・クルマ雑誌のお便り欄やネットメディアのコメント欄でやたらと見かける「捨て台詞」です。成熟市場ではユーザーはどんどん"わがまま"になっているようで、なかなか良さそうなクルマでも「街中でたくさん見かけるから嫌」みたいな言葉を平気で投げつけられます。周囲の評価ばかりを気にしてクルマ選びをしていると、頭の中でネガティブな言葉だけが増幅されて、満足いくクルマには一生辿り着けないんじゃないですかね。「私のような終末国家のハンパものが贅沢にもクルマに乗らせてもらっている・・・」というくらいに心から感謝出来ないと「維持費が高すぎる」なんて不満が頭から離れずに楽しいはずのカーライフは完全に押しつぶされてしまいそうです。

  そんな"わがまま"なユーザーを上手く丸め込むかのように、自動車メーカーは小手先のアイディアを次々と繰り出していて、その成れの果てが「現在の状況」なんじゃないか!?なんてふと思ったりします。その過程でいろいろなアイディアがパクられ・選択・淘汰された結果が現在のラインナップなわけです。芯の通ったコンセプトが欲しいのに、不満を封じるための「応急処置の切り貼り」ばかりが目についてしまって幻滅してしまうこともしばしばあります。クルマの良し悪しはユーザーによって180度変わってしまうものですから一概には言えないですが、クルマ好きが集まった自動車メーカーが自信を持って世に出した「理想のドライビングカー」は一体どれなのか?そもそも現行モデル内に存在するのか?といった疑念が湧いてきます。そしてこれを一番問い正したい!と思うメーカーは意外なことに「マツダ」と「メルセデス」だったりします。

  トヨタなら「レクサスIS350Fスポ」、日産なら「スカイライン350GT」、スバルなら「WRX STI」、スズキなら「スイフトスポーツ」、ダイハツなら「コペン」、VWなら「ゴルフGTI」、BMWなら「M4」といった感じでそれなりに目星が付くものですが、「マツダ」と「メルセデス」にはそういうモデルが現状では見当たりません。どちらも各論として素材の良さは分るのですが、「必死の作り込み」が感じられないモデルばかりで、なんだかイマイチ惹きが弱いです。「どうせ頑張るだけ無駄だし」とは思ってないでしょうが、それでもなんだかユーザーを少々ナメている気がするのは私だけでしょうか。ファンを熱狂させるような「究極」の個性の作り込みを見せてほしいと思う反面、全ラインナップにわたって「メルセデスらしさ」「マツダらしさ」を行き渡らせる努力はとても良くわかるのですが・・・。

  沢村(慎太朗)さんに言わせれば、ベルリネッタもアヴェンタドールも「らしくない」モデルだそうで、その言葉をそのまま拝借すればフェラーリもランボルギーニも究極の作り込みをしなくなっているようです(あくまで4000万円払うという前提の話ですが・・・)。さてポルシェですが、個性を語らせれば世界的に知られたブランドでは随一の実力とはいえ、そのイメージリーダーを務める「911シリーズ」がどうもイケてないです。ド素人にも運転できるという日産GT-Rのコンセプトに同調した現行の991系になったとたんに、ファン離れがどっと加速したようで、どうもクルマ好きに無理してでも1500万円出させるだけのスピリッチュアルな魅力に欠けるようです。端的に言ってしまえばもっと興味深いクルマはたくさんあるってことです。

  失礼ついでに言っておくと、近年のポルシェはSUVやセダンでせっせと儲けるブランドというイメージが広がってしまったのも確実にイメージダウンにつながっています。高級SUVやサルーンにコンセプトを合わせたせいで不必要に豪華になってしまった911シリーズの内装は、あくまで頑固でハードなその乗り心地との間に明確な齟齬を起こしています。RRを安全に走らせるために太いグリップタイヤ(285~305!!!)を必要があるのはよくわかりますが、これではエアサスでも組み込まない限りどう足掻いても、内装にマッチするような乗り心地へと改善することは期待できないです。これだけのブランド車種を「ブレブレのコンセプト」と扱き下ろすのは正直心苦しいですし、身分不相応で失礼千万なのは重々承知ですが、やはり結果的に本物を求めるスポーツカーファンには敬遠されてしまうであろう要素がやたらと目に付いてしまいます。

  SUVやセダンをポルシェが作ってしまったことで自ら墓穴を掘ったという印象は多くのクルマ好きの方々も同調してくれると思いますが、ブランド自身の手によって911シリーズが持っていた「カリスマ性」というべきファンを惹き付ける「箔」をそいでしまいました。これまで少々のことは甘受して911シリーズに「心酔して」乗っていた層が、明確な快適さを持ったカイエンやパナメーラにどっと乗り換えた挙げ句に、今度は「(SUVやセダンなら)BMWの方が良くないか?」と気がついてしまうわけです。アウディ由来のV6よりもBMWのストレート6が絶対的に正義ではないかと・・・。そしてポルシェって一体何なの?何がしたいの?という疑心暗鬼に放り込まれます。

  2000年頃は「911シリーズ」のGTカーとしての地位は万全なもので、BMW M5(E39)やアストンマーティンDB7といった、それぞれブランド史上最高というほどの名車をことごとくなぎ倒した実力は、まさに世界のGTカーの頂点でした。その頃に大学生だった私にとって、ポルシェの2階級制覇(911ターボとボクスターS)という存在感こそがハイパフォーマンスカーの序列において絶対的なものでした。そしてGTカー部門で911ターボに必死に喰らい付いたのがM5で、ロードスター部門でボクスターSに唯一対抗しうるモデルがS2000だったので、BMWとホンダはポルシェに伍するエンジニアリングの名門というイメージも同時に出来上がりました。それから10年以上が経過して状況は大きく変わりました。

  911ターボとM5は北米市場を意識し過ぎたかのようにハイパワー化に邁進し、モンスター級の出力を様々な電制で抑え込んでドイツメーカーらしい安全性を確保したクルマに成り果てました。その途上には日産GT-Rという新たなる挑戦者が登場し、マセラティ・メルセデスAMG・ジャガー(Fタイプ)の参入により「最速」「官能」「ラグジュアリー」などなど評価のファクターも多岐に分かれ、ストイックに「GTカー」としての世界観を追うのではなく、「0-100のタイムは?」「ニュルのタイムは?」「エクゾーストの音作りは?」「変速速度は?」といった要素ごとの作り込み競争に走ってしまっている感があります。911に限った話ではないですが、その過程で2000年頃には確実にあった操る楽しさがかなりスポイルされたという専門家の意見がとても気になります。

  ボクスターSとS2000のロードスター対決も、今やS2000の撤退によってライバル無き「孤独なボクスター」になって数年が経過しています。2005年にはホンダVテックに勝負を挑むべくクーペ部門にケイマンを送り込みますが、欧州で熱狂的な支持を受けていたインテグラRは間もなく姿を消してしまいました。S2000とインテRの後継?としてホンダが新たに作ったCR-Zは、どう考えてもケイマンに対抗しようという意図は、いまのところは微塵も感じられません。ホンダが超一級品のスポーツメーカーだった事実はしだいに風化し、今やホンダの"スポーツカー・スピリッツ"は完全に過去のものになりかけているのが残念です。

  S2000に変わる新たな挑戦者が現れる気配はまだないのですが(フェアレディZカブリオレは重すぎ)、ボクスターは現行モデルも尚、S2000、MR-Sを愛好していた人々からも好意的な熱視線を浴びるモデルとして、日本でも異例のヒットを記録しました。日本にはマツダ・ロードスターという殿堂入りの名シリーズがまだまだ現役ですが、このクルマは操縦性という一つの極致を確立しつつも、弱気でリーズナブルな価格設定がゆえに、手軽でファッショナブルとして世界のベストセラーになってしまった複雑な素性のクルマです。ボクスターやS2000のようにオープンで200km/hを超えて走ってしまうのコンセプトに難があるという指摘もありますが、その意味ではマツダの発想は極めて理性的なものなんだとは思いますが・・・。

  何もかもがバブリーな中国や中東では911ターボが飛ぶように売れるそうですが、日本人の負け惜しみとして、もはや行き着くとこまで行き着いて身動きが取れなくなった911シリーズに何も期待はしてない!と言ってやりたいです(笑)。"操縦性"というキーワードをコンセプトに大きく内包するボクスターこそが、まだまだ2000年頃の古き良きメーカー対決の中心になってくれそうな発展途上の魅力十分だと思うのです。さらにマツダロードスターに200psオーバーのターボを載せるであろうフィアットの新型スポーツカーや、アルファ4Cカブリオレ、ロータスエキシージカブリオレとやや地味なところからですが好敵手は出て来ています。そしてホンダが開発中の2LターボMRの「新型S2000」が発売され、全ホンダファンの期待に応えて「打倒ボクスター!」を掲げるならば「ホンダはやっぱり最高だ!」と大いに盛り上がりたいと思います。


  
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