2014年7月7日月曜日

ジャガーFタイプ・クーペ 「"分化型"メーカーの魅力」

  クルマについていろいろ知りたいと思い、あれこれとクルマ本を読んだり、詳しい人に話を聞いたりしていると、しばしば遭遇するのが「R32は凄かった!」みたいな旧型車への惜しみない賛辞です。昔ワルをやっていたオッサンなんかに喋らすと、「湾岸線で250km/hで走っている横を何台もすり抜けてってさ〜」なんて「本当かな?」という話がたくさん飛び出してきてリアクションに困ったりします。そういう時は「スゲっすね!」しか言っちゃダメです。変にツッコミを入れるとおかしな空気になりますから・・・。

  「昔のスポーツカーは"神"だったけど、今のスポーツカーは"クズ"ばっかだ・・・」みたいなことを言われちゃうと、作る側もどんどん臆病になっていきます。「ファンとは変化を望まぬ人々」という金言もありますが、RX8が、NCロードスターが、CR-Zが、86が浴びてきた批判がメーカーのやる気を失わせ、それらのクルマを楽しむユーザーの声を掻き消し、スポーツカーを巡るあらゆるエネルギーを吸い尽くしてしまう疫病神になっている気がしなくもないです。

  もっとも批判はあって然るべきだとは思います。出来ることならば相手に対して「思いやりのある批判」であればいいのですが、まあそんなに都合良く世の中が「理性的」であるなんて幻想でしかないですが。なにせ専門家の間でも「スポーツカーの定義」など千差万別で、中には極端な例ですが「BMWはスポーツカーだけど、スズキはスポーツカーではない」くらいのざっくりとした考えもあるようです。実際には「BMWもスポーツカーではない」と思うのですが。

  そもそも専用設計のスポーツカーってどれくらいあるの?って話です。本体価格1000万円以下で日本で発売されている専用設計車は・・・トヨタ86/スバルBRZ、マツダロードスター、ロータス(エキシージ、エヴォーラ、エリーゼ)、ポルシェ(ボクスター、ケイマン)、ジャガーFタイプに新たに発売されたアルファロメオ・4Cくらいなものです。あとは全てプラットフォームの流用による「改造乗用車」に過ぎません(ケータハムなどマイナーブランドを除く)。ほんの数年前までは他にもトヨタMR-S、ホンダS2000、マツダRX8そしてNSXがあったわけですが・・・。

  日本未発売のものを含めるともっと増えるか?というと、少なくとも日本で知れ渡っているメーカーからはこれに該当するモデルは作られていないと思います。それゆえにトヨタ86などは、世界各地で最大級の賛辞で歓迎されていますし、「こんなリーズナブルな価格で専用設計スポーツカーを作ってしまう"クレイジー"なメーカーはトヨタ(スバル)とマツダだけだ!」といって「日本の自動車産業」への尊敬を集めています。最近じゃ車種が少なくなったこともあり、86やロードスターの世界的な価値が十分に広まったこともあって、雑誌に叩かれることもなくなりましたし、「ロードスターと違ってZ4の直進安定性は凄い!」みたいな訳分かんない記事に出会うこともほとんどなくなりました。Z4は3シリーズのシャシーを切り詰めて使っているのだからそんなことは当たり前ですよね・・・。

  「ロータス」も「ポルシェ」もそしておそらく「アルファ4C」も、その専用設計の強みを十分に認識されて日本のオーナーからも愛されています。ゴルフをベースにした「アウディTT」や、スカイラインをベースにした「フェアレディZ」、インプレッサベースの「WRX」、Cクラスベースの「メルセデスSLK」とは旋回性能が断然に違うというのもありますが、やはり「専用設計」の魅力というのは大きいと思います。

  そしてこれらと同じように「専用設計」スポーツの強みを発揮して、既存のスポーツカブリオレを蹴散らして世界の注目を集めるジャガーFタイプとそのクーペ版も、「よくぞ!作ってくれました!」と歓迎したいです。先行発売されたコンバーティブルよりも断然にお買い得になったクーペはV6スーパーチャージャー(340ps)が823万円!そしてフェラーリやランボルギーニのラインナップにも劣らないハイパワーを誇るV8スーパーチャージャー(495ps)がなんと1029万円!の大バーゲン価格になっています。

  A45AMGの方が360psも出て658万円!だからお買い得といわれればそうかもしれません。どんな安いクルマでも昔にくらべて断然に高性能になった乗用車のシャシーに、ハイパワーのエンジン載せているだけで満足するならばそれがいいでしょう。メルセデスが鍛えぬいたシャシーのポテンシャルを存分に味わうというのも素晴らしい楽しみ方だとは思います。それは「GT-R」や「WRX」や「M3/M4」が日産、スバル、BMWのシャシーの優越性をアピールするものであるのと同じです。

  その一方で「サルーンとスポーツカーは違う」と考えるメーカー、トヨタ、マツダ、ジャガー、アルファロメオ、ポルシェがやっている「極限まで振り切った作り分け」というのも、「クルマの機能性の分化」を踏まえた上で味わうと、サルーンもスポーツカーもさらに「個性的」に感じます。「統合型メーカー」と「分化型メーカー」とどちらが良いかは好みによると思いますが、レクサスやフェラーリのサルーンサイドを担当するマセラティが、メルセデス、BMW、アウディを徐々に圧倒しつつあるのかなという気がします。

  

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