2013年12月10日火曜日

マセラティ・クワトロポルテ 「立派過ぎる先代は重い十字架だ」

  新型Sクラス(W222)の評判がすこぶる良いようです。よっぽどの欠陥車じゃ無い限り1000万円クラスのクルマに評判が良いも悪いもないと思いますが、この「不自然な賛辞」が自然と巻き起こる背景には、先代(W221)モデルを初めとした既存モデルへの様々な不満が潜在的にあったのだと思います。W221は2005年のデビュー当時には高級志向のラグジュアリーカーとしての性格をさらに強めたモデルだったのですが、さすがに登場から8年経過していてさらにクラスの顔といえる存在感から、後発のライバル車に徹底的にマークされれば、見劣りしてしまう点も多くなってしまいます。

  しかし実質的にW221に対する不満を募らせた張本人と言えるライバル車はほぼ同時期に登場したレクサスLSと、W221よりも前の2004年に復活した5代目クワトロポルテであり、2009年頃に相次いで登場した現行のBMW7、アウディA8、ポルシェパナメーラはW221の足元にも及ばない残念な高級車でしかなく、発表当初の印象も薄れた現在ではほぼ存在感は無い(買う理由がない)クルマです。つまりW221は先に発売したクワトロポルテに結果的に完敗したと言っていいでしょう。

  性能でラテン車を蹴散らしたゲルマン車ですが、このクラスのクルマ作りとなると逆に全く歯が立たなくなるのは、W221と5代目クワトロポルテの関係を見ればよく分かります。もっともマセラティ>メルセデスかというとそうでもなく、2000年代のマセラティの成功はデザイン面で大きく協力したピニンファリーナの力によるところが大きいです。5代目クワトロポルテとそのクーペ版にあたるグラントゥーリズモの2台の内外装のデザインは、歴代のマセラティ車の中でもずば抜けていて全く異次元の出来です。まあ年配の評論家は昔のマセラティを神格化して語る向きもあるようですが・・・。

  他力本願のマセラティに対して、メルセデスは表面的には自力で新たなる高級車のブランドイメージを再構築し、新型Sクラス(W222)として結実させました。メルセデス独自の「宇宙船コクピット」モチーフと、偉大なるライバル・クワトロポルテをリスペクトしたかのような「色気」のある色彩豊かな内装へと変貌を遂げ、W221に対する積年の不満へ誠実に対応していて、この点を評論家の皆様が大絶賛しているようです。もちろん同じようにマセラティの色彩にインスパイアされたレクサスLSや日産GT-Rなども同様の進化を遂げています。

  世界の最高級サルーンには大きく分けて3グループが存在し、英国伝統デザインを受け継いだロールス、ベントレー、ジャガーのグループと、マセラティクワトロポルテのフォロアーに属するSクラス、LS、GT-R(ちょっと毛色が違うクルマだが)。そしてそのどちらにも属さないやや質素なオリジナル・ゲルマン・サルーンのアウディA8、BMW7、パナメーラに分けられると言えます。惜しくも生産が終了した5代目クワトロポルテは、孤高の存在であった英国サルーンへ対抗する最高級車の1つのスタイルを確立したと後世に伝えられる名車になっていくと思います。

  そして今年から発売が始まった6代目クワトロポルテですが・・・ほぼ先代からのキープコンセプトの域を出ていないです。まさかのSクラスがパクリ・コンセプトでなり振り構わず猛追してくるとは思っても見なかったのでしょうか。日本でもこれまでの遺産を受け継いだ独自の立ち位置によってSクラスやレクサスLSとシェアを分け合う事が予想されますが、何度見ても先代の方がカッコいいと思うのは私だけではないはずです。これで顔がそっくりのEセグセダンのギブリが日本にも投入されたら、いよいよ微妙な立場に追い込まれてしまいそうな気もします。せめてジャガーXJのような後ろから一目で分かるような特徴のあるリアを備えてほしかったですね・・・。


2013年12月5日木曜日

アルファロメオ・4C 「チャレンジ精神は報われるはず」

  RX-7、NSX、S2000、ケイマン・・・たとえ実用性が限りなくゼロに近くても、今なお世界中のファンから「人類の遺産」というほどの熱い支持を受けています。それもスポーツカーに偏向したマニアだけでなく一般の人々からも好意的な視線が送られているのを感じます。なんだかんだ文句を言うこともありますが、クルマ好きというのは全般に心が広くて、博愛の精神を持ち合わせています。

  そんな事実がどれほどアルファロメオに勇気を与えたかは分かりませんが、来年にも発売されると言われる「アルファ4C」は、歴史を作ってきた幾多のエクストリームなスポーツカーの系譜に、大きな足跡を残すであろう大胆な設計の「新しい」スポーツカーとして完成しました。

  カーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスティック(CFRP)製のモノコック構造のボディはこのクルマのオリジナルではないですが、3000万円超のスーパーカーでしか主な採用例がなく、1000万円を切る価格帯のクルマにはあまりにもコストに大きく跳ね返る(実際はそこまでではないようだが・・・)ので、それだけでも革命的な出来事です。もちろん外板だけなら100万円台の軽自動車でもカーボン使えるようですが、モノコック構造となるとやはり勝手が違うはずです。

  鉄鋼メーカーに多くを依存しきっている日本メーカーにはなかなか出来ない芸当ですね。横浜に本拠がある日産などは土地柄もあって鉄鋼メーカーとは完全にズブズブで、世界を驚かせたGT-Rも最初から鉄板ありきの設計でした(というよりGT-Rは鉄鋼メーカーが設計したといっても過言ではないくらいだとか・・・)。プライベートジェットを作るなど、航空機産業にも片足を突っ込んでいるホンダならばカーボン・モノコックは割と身近な技術なはずですが・・・。

  フルカーボンにミッドシップ!とまあ新設計なんで斬新な方向に突き進みます。FRにしたら軽量化が台無しですから当然といえば当然です。ボディと設計にここまでこだわることができるのは、エンジンを新たに新調しなくて良いというアルファロメオの事情があります。まだまだその良さが世界に伝わっていないジュリエッタの最上級グレードに搭載されている1.75Lターボエンジンをチューンナップして流用しています。

  どっかの書物の書いてあったのが、アルファの4気筒エンジンは10年以上前から定評があり、ホンダの4気筒と並んでピストン速度が圧倒的に速く、ロングストロークエンジンでも規格外の高回転を実現する技術を競いあっていて、そんなアルファロメオが作った中型車向けの究極形がこの1.75Lエンジンで限界を超えるためにショートストロークへと回帰しています。これが手持ちのスポーツエンジンが無くなったマツダに供給されて次期ロードスターに載るのでは?と密かに期待しているのですが・・・。

  この4Cと同じようなコンセプトのクルマをつくるメーカーにロータスがあります。耐久性能に特化したトヨタ製エンジンを使うメーカーとして知られ、非力なエンジンでも軽量かつミッドシップで高い動力性能を得るというコンセプトですが、最近ではトヨタのヤマハ製造のエンジン(トヨタ版V-tecと呼ばれる可変バルタイの高効率エンジン)が供給されなくなりやや魅力が失われつつあります。そんなロータスに変わって、ホンダに匹敵(凌駕?)するアルファの傑作エンジンを搭載し、車重もさらに軽くなったライトウエイトスポーツの究極形となった「アルファ4C」には世界中から暖かい拍手が送られるはずです。

 

2013年12月3日火曜日

アウディS3セダン 「日本のカーエンスーが求めるイディア?」

  東京モーターショーに持って来たということは、いよいよ日本で売る気満々なようですね。完全に日本で「波」に乗り遅れているアウディは相当に焦っているようです。ゴルフの共通設計という"弱点"を持つので、どう間違っても大ヒットにはならないだろう新型A3の発売を一応しましたが、もはや日本市場はCセグハッチバックに食傷気味で、残りは全部アクセラが持っていってしまう予感です。

  次期TTも絶賛開発中ですが、アウディの次世代のテーマはズバリ「棺桶からバスタブへ」といったところで、日本車のお株を奪うくらいの徹底的な軽量化に邁進しているようです。ちなみにメルセデスもBMWもほぼラインナップ全てを軽量なモデルへと置き換えを進めています。このS3もアルミボンネットで軽量化されているようで、ベースグレードのA3は1.4LターボのFF車で車重わずかに1250kgで同じCセグセダンのトヨタプレミオ/アリオンと同水準まで軽くなっています!ドイツ車もいよいよトヨタのような乗り味になっていくのでしょうか・・・。

  それはさておき、S3は2LターボでフルタイムAWDですから、1500kg前後になってしまうのでしょう。とりあえず300psのAWDとなるとコーナーで激しくボディがよじれますから、耐久性という意味では、ある程度は車重があったほうが安心して乗り続けられるかもしれません。

  なによりこのクルマの最大の魅力は、日本のクルマファンが長年求めていた”オール・イン・ワン"のホットセダンの理想型にかなり接近していることです。1998年にトヨタがアルテッツァを発売した時にトヨタの"支持率"が急上昇しましたが、このS3にアルテッツァのようなドキドキ感を覚える人も少なくないはずです(価格はともかく・・・)。

  実際にはこのS3はアルテッツァやかつてのアコードやレガシィB4のような5ナンバーサイズではなく、BMW3に匹敵する1800mm幅なのですが、コンパクトなのにスタイリッシュに見せるデザインが、かつてのカローラやサニーを思い起こすようなノスタルジーを掻き立てます。それでいて性能は、日本国内ではとても使い尽くせない最高速250km/hを誇ります(だからどうした?)。とりあえずAWDでBMWやメルセデスのハイパワーFRよりも軽快に加速するだけでも魅力を感じます。ちなみに0-100km/hは直6ツインターボのアルピナB3と同等のタイムです。

  4500mmサイズの4ドアセダンにどれだけの実用性があるかとなると微妙なところですが、ゴルフなどのCセグハッチと同等で、BMW2のような2ドアよりは確実に上です。アクセラセダンみたいなものと考えれば、十分に高い実用性と言えますし、これに"ハイパワー"が加わり、さらに"ノスタルジー哀愁"を感じさせるデザインですから魅力十分だと思います。同じようなパッケージのクルマに「スバルWRX」がありますが、プレミアムブランドの内装が付いてくればなかなかいい勝負になるんじゃないでしょうか?